- WOWOWやスターチャンネルなどが提供している有料放送番組サービス、Netflixなどが提供している有料ネット動画配信サービスは、「多数の人々が同時に利用可能(non-rivalrous)である」にも関わらず、公共経済学的意味でのpublic goodsではない。
というのは、それらのサービスで提供されている動画コンテンツは、「視聴料」を支払わないと視聴することができない、すなわち、excludableだからである。
WOWOW、スターチャンネル、Netflixなどの民間営利企業は、視聴者から「視聴料」を徴収することによって自らの事業継続に必要な費用をまかなっている。
- 一方、NHKも放送法第64条(受信契約及び受信料)の第1項の規定、すなわち、NHKの「放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」という規定に基づいて、テレビを設置している人や企業から受信料を取ることによって自らの事業継続に必要な費用をまかなっている。
NHKは、NHKの受信料支払いを拒否している人や企業に対しては裁判に訴えてでも受信料を強制的に徴収している。
- しかしながらそうしたNHKの受信料制度の存在にも関わらず、NHKのテレビ放送番組は、民放のテレビ放送番組と同じく公共経済学的意味でのpublic goodsとして位置づけることができる。
その理由の一つは、NHKの「受信料」は、WOWOWやスターチャンネルなどが提供している有料放送番組サービス、Netflixなどが提供している有料ネット動画配信サービスにおける「視聴料」とはその性格がまったく異なるからである。すなわち、NHKの「受信料」は、NHK放送を視聴することに対する対価でない。
- 「視聴料」は動画コンテンツの視聴の対価であるから、WOWOWやスターチャンネルなどが提供している有料放送番組、Netflixなどが提供している有料ネット動画などの動画コンテンツを視聴したい人は「視聴料」を支払う必要がある。
その一方、当然のことながら、当該事業者が提供している動画コンテンツをまったく「視聴」しない人は「視聴料」を払う必要はない。
- ところがNHK受信料は「視聴料」ではないので、NHKが地上波デジタル放送やBS放送などで提供しているテレビ番組を「視聴」している人だけでなく、まったく「視聴」しない人であっても、放送法の規定に基づき受信料を支払う必要がある。
電気・ガス・水道といった公共サービスに関わる公共料金は、そうしたサービスの利用に対する対価(利用料金)であるから、電気・ガス・水道の設備があっても契約をせず利用しなければ料金を支払う必要はない。したがってNHK放送は、電気・ガス・水道といった公共サービスとはまったく存在性格が異なる。
- またその一方で、NHK受信料は「視聴料」ではないので、受信料を支払ってはいない人もNHKの番組を視聴することができる。
実際、下記WEBページにあるようにNHK受信料支払拒否者に対する裁判などの結果として、2019年度にはNHK受信料の世帯契約率がついに80%を超えるまでに増加した。とはいえ20%近くの人はまだNHK受信料を支払ってはいない。5世帯に1世帯の割で、NHK受信料を支払ずにNHKのテレビ番組を視聴しているのである。
- 地デジ化以前のアナログ放送ではfree riderの排除は技術的に困難であったが、日本における地デジ化の際に導入されたB-CASカードによるスクランブル技術により、free riderの排除が技術的に可能となった。
- NHKは、受信料を支払わない人に対して、NHK放送受信料の契約・収納業務を担うNHK訪問員による説得や、NHK受信料の支払拒否者に対する裁判により、NHK受信料の納入率の向上を図っている。
- NHKは、テレビ東京が2019年度に番組制作に費やした金額370億円の1.7倍もの金額を、NHK放送受信料の契約・収納業務に費やしている。これは正常な事態であるとはあまり言えないであろう。
テレビ東京の番組制作費は、テレビ東京「2020年3月期 通期決算補足資料」p.6に記載されている。