垂直統合 vs 水平分業

1. イノベーション論的視点から見た企業活動を構成する諸要素
 イノベーション論的視点から見ると、企業活動を構成する下記のような諸要素それぞれに関して、どのように取り組むのかという戦略的決定が問題となる。

表1 イノベーション論的視点から見た企業活動の構成諸要素
要素1 Market Research
(市場調査)
既存市場および将来市場に関する調査
要素2 Technology Research
(技術調査)
既存技術および将来技術に関する調査
要素3 Product Planning
(製品計画/サービス計画)
どのような市場を対象に、どのような技術を用いて、どのような製品コンセプト(product concept)の製品を開発するのかに関する決定
要素4 Market Creation
(市場創造)
新製品が新しい市場セグメントを構成するような製品の場合には、新市場セグメント創造のために新製品(新サービス)のnecessity/usefulnessを社会的に認知させ、新しいwantsを創造することが必要になる。
要素5 Technology Development
(新技術開発)
製品コンセプトの実現に必要な新技術の開発。既存技術のみで製品コンセプトの実現が可能な場合にはこの要素は不要となる。
要素6 New Product Development
(新製品開発/新サービス開発)
製品コンセプトの実現に必要十分な機能・性能を有した製品(サービス)の開発、製品(サービス)の機能設計(製品の機能と性能に関する技術的決定)・構造設計(製品の素材および構成モジュールに関する技術的決定)の実施
要素7 Production / Manufacturing
(製品生産/製品製造
/サービス提供)
開発した新製品の生産(製造)、開発した新サービスの提供、「製造工程設計」(製品の製造工程に関する技術的決定)プロセス、「製品製造」プロセス
要素8 Sales
(製品販売/サービス販売)
生産した新製品(新サービス)の販売
2.「垂直統合」「水平分業」に関する基本的イメージ
企業がおこなう活動を構成するさまざまな要素の内で、どの要素を「内部」化し、どの要素を「外部」化するのかに関する決定の仕方についての基本的モデルが、垂直統合(Vertical Integration)水平分業(horizontal division of labor、horizontal specialization)である。

ただし一般的には、製品を構成する諸モジュールそれぞれに関して、上記の要素5、6、7の「内部」化・「外部」化のあり方が複数企業の間で分業されているのか、それとも一社ですべて統合的になさているのかが問題とされている。

「水平分業」型産業構造を持つパソコン — マイクロソフトの「Windows OS」+インテルの「x86アーキテクチャCPU」
表2 「水平分業」型産業構造を持つパソコン
module/
product
主要モジュール1 主要モジュール2 製品
OSの技術開発
・設計・生産
CPU
の技術開発
・設計・生産
PCの
設計・生産
担当
企業名
マイクロソフト インテル PCメーカー
たとえばパソコン製品の多くは、製品の主要モジュールについての研究開発や製造に関して、OSモジュールをマイクソフトが、CPUモジュールをインテルが担っている。OSモジュールのバージョンアップやCPUのコア数の増加などといった、それらの主要モジュールに関するProduct Innovationによって、パソコンのProduct Innovationが実行されている。すなわちパソコンに関するイノベーションは、モジュール・メーカーによって担われている。HP、ACER、デル、富士通、ソニーなどのパソコン「メーカー」が行っているのは、外部からOSモジュールやCPUモジュールなどをモジュール・メーカーから調達し、それらのモジュールを「組み立て」ることである。こうした産業構造は「水平分業」型と位置づけられている。

「垂直統合」型産業構造を持つ自動車
表3 「垂直統合」型産業構造を持つ自動車
module/
product
主要モジュール1 主要モジュール2 製品
エンジンの技術開発
・設計・生産
車台
の技術開発
・設計・生産
自動車の
設計・生産
担当
企業名
自動車メーカー
(トヨタ、ホンダ、フォード、クライスラーなど)
これに対してトヨタやホンダなどの自動車メーカーは、自動車製品の主要モジュールであるエンジンなどについての研究開発や製造を自社で行い、モジュールのProduct Innovationを自社で行っている。そしてまた、モジュールの加工工程や組み立て工程に関するイノベーションを行うとともに、モジュールを組み立てて自動車という製品を製造している。

3. 垂直統合と水平分業をめぐる企業の戦略的決定
 どの活動要素を外部化し、どの活動要素を内化するのかは企業における戦略的決定の問題である。このことに関して、下記にいくつかの発言を見ていくことにしよう。

「成長する会社しない会社――出井ソニー会長次の成長戦略は」『日経産業新聞』2003年6月2日によれば、当時ソニー会長であった出井伸之氏は、「エレクトロニクス産業は、日本が得意だった(部品を組み上げた製品に付加価値を持たせる)垂直統合型の事業構造から(部品そのものが価値を持つ)水平型への転換が進む」という状況認識を述べるとともに、「半導体など水平型の事業は多額の投資を続けることが必要な規模のビジネスだ。パン(最終AV製品)を作るのに自分で小麦粉から作るつもりはないが、麦畑ぐらいは押さえたいと考えている」として、「ソニーは[垂直統合型事業と水平型事業という]二つの組み合わせを目指す」と述べている。

[調べて見よう]
課題1.「水平分業」や「垂直統合」に関しては、下記をはじめとしてWEB上に様々な記事がある。
(1) なるべく数多くのWEB上の記事を調べて、「水平分業」や「垂直統合」に関してどのような記述がなされているのかを調べなさい。
(2) それらの各WEB記事の間で、「水平分業」や「垂直統合」というキーワードに関する理論的規定に関してどのような食い違いがあるのかを論じなさい。
(3) 自分が最も適切と思う「水平分業」や「垂直統合」というキーワードに関する理論的規定はどのようなものであるのかを、根拠を挙げて説明しなさい。

[関連参考WEB]
川又英紀(2010)「水平分業とは」ITpro>知っておきたいIT経営用語 [原出典]『日経情報ストラテジー』2009年6月号、p.22
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Keyword/20100723/350552/

日本経済新聞(2012)「シャープの上を行くビジオの業務モデル 水平分業ですらもう古い」『日本経済新聞』電子版、2012/10/10 7:00
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0900C_Z01C12A0000000/

課題2. 先進国と途上国の間での国際分業の類型に関しては、下記URLのように垂直的分業もある。企業間においても、国家間におけるような垂直的分業と類似した連携が存在する。そのことについて具体的な例をもとに論じなさい。

http://kotobank.jp/word/垂直的分業

課題3. 下記URLの記事および類似の記事を参考にして、「垂直vs水平」「統合vs分業」という二つの基準軸からアップルのビジネスモデルを論じなさい。なお下記の記事以外で自分が参照した記事に関して、その著作者名、タイトル名、URLなど必ず書きなさい。

週刊ダイヤモンド編集部(2012)「アップルのものづくりは垂直?水平?」2012年10月29日
https://cakes.mu/posts/433

課題4. アップル製品のiPhoneおよびサムスンのGALAXY S4に関してそれぞれ、「OSに関する技術開発」、「OSの設計」、「CPUに関する技術開発」、「CPUの設計」、「CPUの生産」、「製品設計」、「製品製造」といった各要素を主導的に担っている企業はどこなのかを調べた上で、iPhoneおよびGALAXY S4のそれぞれに関して「垂直」「水平」という視点から論じなさい。
カテゴリー: 未分類 パーマリンク