放送の公共性

     
    「朝日新聞」記事(1985年1月~2006年9月)、「読売新聞」記事情報(1986年9月~2006年9月)および「毎日新聞」記事(1987年1月~2006年9月)で下記のキーワードを含む記事を検索し、「放送の公共性」ということが新聞記事においてどのように取り扱われているのかを分析した論考。

    1. 放送の公共性
    2. 「放送」AND「公共性」
    3. 「公共放送」
    4. 「公共性」

    本論稿によれば、公共性という単語は下記のようなニュアンスを持つ言葉として新聞記事で使用されている。

    1. 「安全・快適な社会生活を営む上でなくてはならぬもの」=「みんなの役に立つこと」「公衆の利益に役立つこと」(公益性)
    2. 「誰にでも利用機会のあるサービスに関して、市場原理に任せて金儲け・利益追求の対象とするのではなく、安価に提供できるようにすること」(ユニバーサリティ、非商業性)
    3. 「高い質を持ったサービスを提供すること」(視聴率が取れるエンターテインメント中心の番組編成をしないこと、ジャーナリズム精神あふれる番組や文化的な番組を提供すること)(社会における文化の昂揚、文化水準の向上)
    4. 「放送に関するアカウンタビリティ(説明責任)を確保すること」(アカウンタビリティ)
    5. 「特定の主義主張や政治的立場に与しないこと」(不偏不党性)
     
    「公共性」という日本語の単語が英語やドイツ語でどのような単語に対応するかを通じて、「放送の公共性」を考察した論考。
    著者は、「日本語の「公共性」は,この60年余りの間に,まことに正体のハッキリしないものになってしまった」にもかかわらず、「その「公共性」を錦の御旗にして放送事業を掌る人々の自己正当化が行われている」ことが問題だとし、「現在,日本で「公共性」として理解されているすべてをこの一語に包含し続けるよりは,「公共(的)――」というように,もう一つの名詞を添えて,概念の具体化を図ることが望ましい。それらの新しい概念は,人によって理解の食い違いを生まないような,明確なものでなければならない。」と主張している。

    1. public interest
    2. public responsibility
    3. public service
    4. Öffentlichkeit
    5. Grundversorgung と Funktionsauftrag
    6. publicness
     
     
     
     
     
    YouTube、Netflix、Amazon Primeなどのサービスの普及が示唆するように、動画視聴が従来のライブ視聴型(ライブ配信型)からオンデマンド型へと移行しつつある。そうした中で「放送の公共性」の意義も変わりつつある。すなわち、YouTube、Netflix、Amazon Primeなどオンデマンド型動画配信サービスは、「パーソナル化による視聴者の断片化」を進めるものであるとともに、「グローバルなメディアマーケットでの利益追求」を求めるものである。しかしそうしたことの進行は、公共放送がこれまで担ってきた「社会で共有する体験や知識を提供する」という機能の低下をもたらすものでもある。

    OTTは、Over The Topの略語で、「動画・音声などのコンテンツ・サービスを提供する事業者、もしくはそれらコンテンツ・サービスそのもの」を指す。Zoomなどのオンライン会議サービス、YouTube、Netflix、Amazon Primeなどの動画配信サービス、音声通話やメッセンジャー機能を備えたLINE、Skypeなど、「インターネットサービスプロバイダ(ISP)や通信事業者とは関係のない企業が運営し、特に大量のデータ通信が発生するサービス」をOTTと呼ぶことが多い。参考資料:『KDDI用語集』

     

    https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/oversea/036.html
    https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2006_03/060302.pdf

    よく言われることであるが、公共放送の特徴として、「政治・企業(商業主義)からの独立」、「すべての視聴者への奉仕」、「国民生活に関連する基本的情報の伝達」、「番組の質の高さ」、「受信料(支払金額)の適切性」などを挙げている。

    https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/focus/070.html

    https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/domestic/051.html
    「最近、自主放送のコミュニティチャンネルをめぐって、公共性を問われる問題が相次いでいる。都内のケーブルテレビでは、市民が制作しコミニュティチャンネルで放送された番組が政治的公平性に問題があるとして、総務省から行政指導を受けた。」といったことを取り上げている。

    https://www.nhk.or.jp/bunken/book/media/pdf/2016_32.pdf
    ソーシャルメディアの公共性(pp.243-244)など、「放送の公共性」に関わる周辺的問題が論じられている。

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