新聞記事や雑誌記事に対する批判的検討の必要性

新聞記事や雑誌記事をレポートや卒論で引用したり参考にしたりする際には、下記のような理由から十分な注意を払ってください。

その理由1>時間的制約が強い中で、Newsとして「それまでに報道されてはいない新しい事柄」を報道しなければならない新聞や雑誌といったメディアでは、必ずしも十分な検証が済んではいない記事が掲載されてしまうことがあります。
 これに対して、きちんとした学会が発行している学会誌のレフェリー付き論文では、論文の執筆者以外の複数のレフェリーが眼を通して、その内容の正確性に関するチェックを時間をかけておこなっている(あるいは、おこなっていた)のが一般的ですので、より信頼度が高いと考えられます。ただし最近では学会でもレフェリー期間が短く限定されていたり、信頼できる当該分野の専門家の数が限られていたりするため、十分なチェックがなされているとは考えにくい論文もあります。

その理由2>新聞記事や雑誌記事を書いている記者も「人間」ですから、あまり適切ではない「先入観」や思いがけない「誤解」から完全に自由であるわけではありません。またマンハイム(Karl Mannheim)などが論じた存在被拘束性(Seinsverbundenheit)といった問題もあります。

その理由3>新聞記者や雑誌記者は、記者という専門家ではあっても、ある特定専門分野の専門家であるわけではありません。またすべての分野に関して的確な専門的知識を持っているわけではありません。したがって当該分野の専門家の眼から見ると必ずしも正確ではない事柄が記事になってしまうのはしかたがありません。
 また無署名記事には複数の十分なチェックがなされてはいますが、ニュースソース自体に問題がある場合には正確ではない事柄が記事になってしまうことになります。

[注意事項]
 もちろんこのように書いている筆者自身にもこうした問題から完全に自由であるわけではありませんので、本サイトの記事に関しても、無批判的に信じるのではなく、批判的検討を必ず加えてください。

 以上のことから、新聞記事や雑誌記事をレポートや卒論で引用したり参考にしたりする際には、「ニュースソース」(情報源、取材源。記者が記事を書く際に利用した情報の出所。)が異なっていると思われる記事をなるべく数多く探し出して、それらの間で事実的データやニュアンスにどのような差異があるのかないのかを調べるとともに、分析結果や見解にどのような差異があるのかないのかを調べてください。

 ネット検索をすると、社会的に注目を浴びている問題などの場合には、同一の事柄に対して様々な見解があることはすぐにわかります。社会的に必ずしも大きな注目を浴びてはいない問題の場合でも、該当件数が少ないだけで、複数の異なる見解があることは少し注意して調べればわかります。

[考えてみよう]
課題1.下記の複数の記事を読むとともに、下記以外の関連する記事を自分で調べて、事実としてより正確な事柄は何なのかを考えてみよう。

日本経済新聞(2013a)「液晶大手、iPhone用パネル減産 販売伸び悩み 」『日本経済新聞 電子版』2013/1/14 2:01
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD1201V_T10C13A1MM8000/
[電子部品メーカー幹部の「1月からiPhone向けの受注が半減している」という発言をニュースソースとした記事]
日本経済新聞(2013b)「グーグル、タブレットでアップル逆転 低価格武器に:国内の年末商戦」『日本経済新聞 電子版』2013/1/16 22:07
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD1201V_T10C13A1MM8000/
[「グーグルがアップルを逆転――。昨年の年末商戦の国内タブレット(多機能携帯端末)市場で、米グーグル「ネクサス」のシェアが米アップル「iPad(アイパッド)」を初めて上回った。」という内容の記事。本記事のニュースソースは、調査会社BCNのデータである。]
磯修(2013)「タブレットに新潮流、7型NexusがiPadをついに逆転」日経トレンディネット, 2013年01月17日
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20130116/1046897/?P=2
[調査会社BCNのデータをニュースソースとする、「タブレット市場のメーカー別シェアにおいて、それまで60%を超える絶対的なシェアを長く誇っていたアップルが2012年12月にはトップシェアを初めてエイスースに譲った」という内容の記事。]
小島健志(2013)「iPhoneより売れているIGZO搭載スマホの登場で一人負けのドコモに一筋の光」diamond.jp,週刊ダイヤモンド【第791回】 2013年1月11日
http://diamond.jp/articles/-/30431
[シャープ製「アクオスフォン ゼータ(AQUOS PHONE ZETA SH-02E)」は2012年11月下旬の発売以降、スマホ機種別販売台数ランキングでiPhone5を押さえて6週連続の1位を獲得しているという調査会社BCNの調査データをニュースソースとする記事。ただしそうしたことにも関わらず、「顧客流出は13万件と10万件を超える高水準のまま。ゼータ効果は限定的で」あるとしている。]
後藤直義(2013)「iPhone5が大幅減産で“アップル依存列島”に大打撃」diamond.jp,週刊ダイヤモンド【第795回】 2013年1月17日
http://diamond.jp/articles/-/30619
[「アップルは12月中旬ごろ、主要取引先に出荷目標を大きく落とすと通告した」「液晶なら約5割、その他の電子部品は約3割と、大幅な減産モードに追い込まれ、半年間は低調が続きそうだ」というある電機メーカー幹部の発言、および、ドイツ証券のリサーチアナリストの中根康夫氏の「iPhone5の出荷台数は発売直後の12年10~12月の3カ月間で推定4500万台(主要部品ベース)。しかし13年1~3月は2500万~2800万台と、半年もたたずに約40%減る可能性がある」という発言などをニュースソースとする記事]
Rogowsky,Mark(2013)”Why The WSJ Got The ‘iPhone Demand Is Crashing’ Story All Wrong,” Forbes.com,2013/01/15
http://www.forbes.com/sites/markrogowsky/2013/01/15/did-the-wsj-get-punkd-on-apple-or-is-it-rotten-to-the-core/
[「なぜWall Street Journalが「iPhoneの需要は大幅に減少しつつある」というまったくの誤解をしたのか?」というタイトルの記事][You got it wrong.という文は「あなたのその理解は間違っています。」「それはあなたの誤解である。」といった意味になります。]
本田雅一(2013)「iPhone、iPadが売れてない?アップル製品沈没、不思議報道のメカニズム」Yahoo!Japan ニュース、2013年1月19日 2時55分
http://bylines.news.yahoo.co.jp/masakazuhonda/20130119-00023120/
[Rogowsky(2013)で
「アップルは1~3月期に合計約6500万台分のパネルを発注する計画だったが、半分程度に減らすことを通告したもようだ」という日本経済新聞(2013a)の記事の信頼性に関して、AppleのiPhoneの出荷台数の四半期ごとの数値をもとに批判を加えたRogowskyの記事の紹介、および、BCNの記事の信頼性の検討がなされている。]

課題2.課題1のような問題は、ニュースソースの正当性の問題だけでなく、理論的用語の定義の違いや、対象とする製品セグメントのとり方の違いによる市場データの数値の違いなどに起因する問題でもある。そのことについてわかりやすく説明してみよう。

課題3.課題1で挙げたのと同じように、同一の事柄に関して複数の見解が存在する記事を自分で調べるとともに、自分としては何が事実としてより正確な事柄は何なのかを考えてみよう。

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