NHK受信料の社会的存在性格および社会的意義

  1. WOWOWやスターチャンネルなどが提供している有料放送番組サービス、Netflixなどが提供している有料ネット動画配信サービスは、「多数の人々が同時に利用可能(non-rivalrous)である」にも関わらず、公共経済学的意味でのpublic goodsではない。
     というのは、それらのサービスで提供されている動画コンテンツは、「視聴料」を支払わないと視聴することができない、すなわち、excludableだからである。
    WOWOW、スターチャンネル、Netflixなどの民間営利企業は、視聴者から「視聴料」を徴収することによって自らの事業継続に必要な費用をまかなっている。

  2. 一方、NHKも放送法第64条(受信契約及び受信料)の第1項の規定、すなわち、NHKの「放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」という規定に基づいて、テレビを設置している人や企業から受信料を取ることによって自らの事業継続に必要な費用をまかなっている。
     NHKは、NHKの受信料支払いを拒否している人や企業に対しては裁判に訴えてでも受信料を強制的に徴収している。

  3.  しかしながらそうしたNHKの受信料制度の存在にも関わらず、NHKのテレビ放送番組は、民放のテレビ放送番組と同じく公共経済学的意味でのpublic goodsとして位置づけることができる。その理由の一つは、NHKの「受信料」は、WOWOWやスターチャンネルなどが提供している有料放送番組サービス、Netflixなどが提供している有料ネット動画配信サービスにおける「視聴料」とはその性格がまったく異なるからである。

  4. 「視聴料」は動画コンテンツの視聴の対価であるから、WOWOWやスターチャンネルなどが提供している有料放送番組、Netflixなどが提供している有料ネット動画などの動画コンテンツを視聴したい人は「視聴料」を支払う必要がある。
     その一方、当然のことながら、当該事業者が提供している動画コンテンツをまったく「視聴」しない人は「視聴料」を払う必要はない

  5.  ところがNHK受信料は「視聴料」ではないので、NHKが地上波デジタル放送やBS放送などで提供しているテレビ番組を「視聴」している人だけでなく、まったく「視聴」しない人であっても、放送法の規定に基づき受信料を支払う必要がある。(電気・ガス・水道といった公共サービスに関わる公共料金は、そうしたサービスの利用に対する対価(利用料金)であるから、電気・ガス・水道の設備があっても契約をせず利用しなければ料金を支払う必要はない。)

  6.  またその一方で、NHK受信料は「視聴料」ではないので、受信料を支払ってはいない人もNHKの番組を視聴することができる。
     実際、下記WEBページにあるようにNHK受信料支払拒否者に対する裁判などの結果として、2019年度にはNHK受信料の世帯契約率がついに80%を超えるまでに増加した。とはいえ20%近くの人はまだNHK受信料を支払ってはいない。5世帯に1世帯の割で、NHK受信料を支払ずにNHKのテレビ番組を視聴しているのである。

     

     地デジ化以前のアナログ放送ではfree riderの排除は技術的に困難であったが、日本における地デジ化の際に導入されたB-CASカードによるスクランブル技術により、free riderの排除が技術的に可能となった。
    現在ではスクランブル技術を利用すれば、NHK受信料を支払ってはいない場合に、NHKが地上波デジタル放送やBS放送などで提供しているテレビ番組を視聴できないようにすることができる。そうであるにも関わらず、NHKはそうした形でfree riderを排除することはしていない。
    NHKは、受信料を支払わない人に対して、NHK放送受信料の契約・収納業務を担うNHK訪問員による説得や、NHK受信料の支払拒否者に対する裁判により、NHK受信料の納入率の向上を図っている。NHKは2019年度に7,230億円の受信料収入を得ているが、NHK放送受信料の契約・収納業務に関して契約収納費として約630億円も支出している。NHKは、テレビ東京が2019年度に番組制作に費やした金額370億円を大きく超える金額を、NHK放送受信料の契約・収納業務に費やしているのである。これは正常な事態であるとはあまり言えないであろう。)

問1 このようにNHKが地上波デジタル放送やBS放送などで提供している動画コンテンツは、「NHKのテレビ番組を実際に見ているか否か?」とはまったく無関係に、テレビを設置していること、すなわち、テレビを所有していることを根拠に受信料は毎年取られる。
 税金の中には、NHK受信料と同じく、それを「実際に利用しているか否か?」とはまったく無関係に、それを持っていること(所有)を根拠に毎年取られる税金がある。
 例えば、土地や住宅を所有している人は、「その土地や住宅を実際に利用しているか否か?」とはまったく無関係に、土地や住宅に対する固定資産税を毎年取られる。空き地、空き家であっても固定資産税を支払う必要がある。
 「それを実際に利用しているか否か?」とはまったく無関係に、「それを持っていること」(所有)を根拠に毎年取られる税金は、固定資産税以外にもある。「それはどのような税金であるのか?」、「なぜ、利用とはまったく無関係に所有を根拠としてそうした税金が課されているのか?」、「まったく利用していないにも関わらず、そうした税金を支払うべき正当な社会的理由は何か?」を考察しなさい。

問2 NHK受信料に関して、「放送法に基づく契約締結義務として受信料を取るのではなく、税金の一種として受信料を法的に強制的に取るようにすれば、受信料を支払う世帯と支払わない世帯での社会的不公平がなくせて良いのではないか?」という主張がある。
 第二次大戦後に成立した放送法制定時に、「受信料を税金とはしなかった社会的理由は何か?」、「なぜ税金でNHK放送を支えるような社会的制度設計とはしなかったのか?」ということを考察しなさい。


問3 21世紀の現在では、インターネット技術の発展の結果として、数多くの動画コンテンツを有し、地上波デジタル番組でもその投稿動画が取り上げられることも多いYoutubeや、「全部で25チャンネルものチャンネル数を持ち、ニュース番組、ドラマ番組、アニメ番組などを無料でネット配信している」ABEMA TVなどのように、多種多様な無料動画コンテンツを数多く見ることができる。
 このように営利事業者も含め、多種多様な無料動画コンテンツを数多く見ることができるようになった現在でもなお、NHKの受信料制度を存在させる社会的意義および社会的正当性はどこにあるのかを考察しなさい。

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