レビットの「マーケティング近視眼」問題

ドメインの物理的定義 vs 機能的定義 — 「製品それ自体」vs「顧客ニーズの充足」
セオドア・レビット(Theodore Levitt)によれば、企業は、Productよりも、Needsの方をより重要視すべきである。すなわち、企業は、自らが顧客に現に提供している<製品>それ自体よりも、製品が充足している<顧客ニーズ>の方をより重要視すべきである。
 言い換えれば、「顧客に現にどのような製品(あるいはサービス)を提供するのか?」や「将来的にどのような製品(あるいはサービス)を提供するのか?」という企業活動のドメイン(対象領域)設定に際して、<製品>レベルに留まって定義することは適切ではない。製品(あるいはサービス)が充足する<顧客ニーズ>レベルにまで降りてドメインを設定すべきである、とレビットは主張している。
 企業活動のドメイン(対象領域)を 「製品」(あるいはサービス)レベルで定義することは、ドメインの物理的定義と呼ばれている。これに対して、企業活動のドメイン(対象領域)を 「製品」(あるいはサービス)が充足する<顧客ニーズ>レベルで定義することは、ドメインの機能的定義と呼ばれている。

この問題は、ProductとTechnologyの区別という経営技術論の議論、および、needs概念(広義)を、「必要としている」「有用である」という意味における狭義のneeds、「欲しい」という意味におけるwants、「購入する」という意味におけるdemandに分けて分析するべきとするコトラーの議論と関連付けて論じることが有用である。
 「必要としている」「有用である」という意味における狭義のneedsは、Productが持つFuntion(機能)・Performance(性能)と関連付けて理解すべきものである。日常表現における「Productを必要とする」「Productが有用である」という記述は、「××というneeds(狭義)を充足するためには、××というProductが持つ××という機能を必要とする」、「××というneeds(狭義)を充足するためには、××というProductが持つ××という機能が有用である」という表現の短縮的な記述である。
 
「マーケティング近視眼」(Marketing Myopia)問題
レビットは、物理的定義のレベルでのみドメイン設定を考えることを、「マーケティング近視眼」(Marketing Myopia)と呼んだ。
レビットは下記のように、19世紀後半~20世紀前半期のアメリカの鉄道企業は、自社の事業ドメインを鉄道事業と捉えるという「マーケティング近視眼」に陥っていたために衰退したとしている。

Levitt, T.(1960) “Marketing Myopia,” Harvard Business Review, July-Aug 2004.,p.138
”railroad executives seen themselves as being in the transportation business rather than the railroad business, they would have continued to grow. ”
“The railroads did not stop growing because the need for passenger and freight transportation declined. That grew. The railroads are in trouble today not because that need was filled by others (cars, trucks, airplanes, and even telephones) but because it was not filled by the railroads themselves. They let others take customers away from them because they assumed themselves to be in the railroad business rather than in the transportation business. The reason they defined their industry incorrectly was that they were railroad oriented instead of transportation oriented; they were product oriented instead of customer oriented.”

 

またレビットは、下記のように、20世紀中頃のアメリカのハリウッドの映画企業も「マーケティング近視眼」に陥った、としている。

Levitt, T.(1960) “Marketing Myopia,” Harvard Business Review, July-Aug 2004,pp.138-139
” Hollywood barely escaped being totally ravished by television. Actually, all the established film companies went through drastic reorganizations. Some simply disappeared. All of them got into trouble not because of TV’s inroads but because of their own myopia. As with the railroads, Hollywood defined its business incorrectly. It thought it was in the movie business when it was actually in the entertainment business.”
 

[考察してみよう]「20世紀中頃のアメリカのハリウッドの映画企業がマーケティング近視眼に陥ったとはどういうことなのか?」を,動画ニーズの充足という視点から考察してみよう。
[関連参考資料]Grant, C. (1999) “Theodore Levitt’s Marketing Myopia,” Journal of Business Ethics , 18(4), pp.397-406
https://www.jstor.org/stable/25074063

カテゴリー: イノベーション事例 パーマリンク