製品イノベーションの構造に関する needs,wants,demand視点からの考察

1.ニーズ(needs)概念の3分類
ニーズ(needs)という単語は経営学的には区別すべき3つの意味を持っている。
(1) 必要性(necessity)、有用性(usefulness) —- (製品が持つ××という機能を)「必要とする」、(製品が持つ××という機能が)「役に立つ」
(2) 欲求(wants) — (製品を)「欲しい」
(3) 需要(demand) — (製品を)「購入する」
 
例えば、水に対する「ニーズ」というのは下記のような3つの意味を持っている。
 
(1) 水分摂取の必要性(necessity)・有用性(usefulness) - 製品の「水分補給」機能を「必要とする」、製品の「水分補給」機能が「役に立つ」
ヒトは生きていくために水分を摂取する必要がある。成人の体の60%は水分であり、尿や汗などとして1日当たり約2リットルから2.5リットルの水分が体外に排出される。その排出分を食物や飲料水で補給する必要がある。排出に対応する量をきちんと摂取することは、スポーツ中の熱中症防止や脳梗塞・心筋梗塞のリスク低下など健康維持に役にたつ
なお水分摂取の必要性・有用性は、「のどの渇き」といった形で感覚的に認識される。また水分摂取の必要性・有用性のレベルでは、個別の具体的な製品ではなく、それぞれの製品が持つ「水分」補給機能が問題となる。「製品が役立つのではなく、製品の持つ機能が役立つのである」という意味において、「製品を必要とするのではなく、製品の持つ機能を必要とする」のである。(機能は製品が「どのように役立つか?」ということに関係し、性能は製品の当該機能が「どの程度役立つか?」ということに関係する。)
 
(2) 水製品に対する欲求(wants) - ××という個別の具体的製品(product)が「欲しい」
水分摂取の必要性・有用性に関する認識(「のどの渇き」などといった感覚的認識、あるいは、体外に排出した水分量に応じた水分摂取が必要であるという理性的認識)に基づき、水製品に対する欲求が生じる。
 必要性・有用性の対象が「製品の持つ機能・性能」であったのに対して、欲求の対象は「必要な機能・役立つ機能を持った製品」である。すなわち人びとが「欲しい」のは、「水分補給」機能ではなく、「家の水道水」、ペットボトル「SUNTORY天然水南アルプス」ペットボトル「クリスタルガイザーミネラルウォーター500ml」室戸海洋深層水を詰めたペットボトル「龍馬の水ぜよ」とかいった個別・具体的な製品(product)である。
 
(3) 水製品に対する需要(demand)- ××という個別の具体的製品(product)を「購入する」
需要の対象は、欲求の対象と同じく、「必要な機能・役立つ機能を持った製品」である。
 水を飲みたいという欲求を充足する製品(商品)は数多く存在する。最も低価格なのは水道水である。水道水をおいしくないと感じる人や、水道水に不安を感じる人は、ペットボトル入りの「天然水」、「ミネラルウォーター」、「深層水」などの水製品を購入する(「天然水」・「深層水」は宣伝のためのブランド名称であり、一般的にはミネラルウォーターに分類される)。清涼飲料水製品に対する需要は長期的には増加傾向にある。例えば、一人当たりのミネラルウォーターの消費量は、1997年には年間6.3リットルであったが、2014年には25.7リットルと約4倍にもなっている。
 
[参考資料]
 
[考察してみよう]
問1 「必要性(necessity)、有用性(usefulness)」、「欲求(wants) 」、「需要(demand)」の3種類の区別が明確に分かるような具体的事例を一つ挙げなさい。そして上記の水の例を参考にしながら、わかりやすく説明しなさい。
問2 Apple社のApple Watchという製品に関して、「必要性(necessity)、有用性(usefulness)」、「欲求(wants) 」、「需要(demand)」という3つの視点からわかりやすく論じなさい。
なお、水のようにヒトの生命維持に必要不可欠なモノに対しては対応する生理的欲求が存在することが多い。しかしApple Watchのような製品は、水の場合とは異なり、製品に対する欲求を人為的に生み出す必要がある。
問3 コトラーのマーケティング論でもneeds, wants, demandsの3要素が区別されている。下記資料などを参考にして「コトラーのマーケティング論においてneeds, wants, demandsの規定がどのようになっているのか?」「コトラーのマーケティング論における規定と上記における「必要性(necessity)、有用性(usefulness)」、「欲求(wants) 」、「需要(demand)」の規定とはどのように違っているのか?」をわかりやすく説明しなさい。
Kotler, P.(1994) Marketing Management, 8th edition, Prentice Hall International, p.7では”A human need is a state of felt deprivation of some basic satisfacion.”、”Wants are desire for specific satisfiers of these deeper needs.”、”Demands are wants for specific products that are backed by an ability and willingness to buy them”と規定されている。
 
製品イノベーションに際しては、製品に対するニーズを、「必要性(necessity)、有用性(usefulness)」、「欲求(wants) 」、「需要(demand)」という3つの視点から分析する必要がある。そしてまた製品イノベーションの歴史的展開プロセスもそうした3つの視点から説明することができる。
 
[考察してみよう]
問4 炭素繊維という素材に関する製品イノベーションの起源・遂行・普及のプロセスに関して「必要性(necessity)、有用性(usefulness)」、「欲求(wants) 」、「需要(demand)」という3つの視点からわかりやすく分析・説明しなさい。
問5 ソニーのカセットウォークマンという携帯音楽機器製品に関する製品イノベーションの起源・遂行・普及のプロセスに関して「必要性(necessity)、有用性(usefulness)」、「欲求(wants) 」、「需要(demand)」という3つの視点からわかりやすく分析・説明しなさい。
問6 アップルのiPhoneというスマホ製品に関する製品イノベーションの起源・遂行・普及のプロセスに関して「必要性(necessity)、有用性(usefulness)」、「欲求(wants) 」、「需要(demand)」という3つの視点からわかりやすく分析・説明しなさい。
 
カテゴリー: needs-seeds論, イノベーション論 パーマリンク