製品販売から得られる利益は単純化して言えば下記のようになる。
「製品1個当たりの利益」 = 「販売価格」-「製造費用」-「販売管理費用」
「総利益」=「製品1個当たりの利益」×「総販売数量」
このことから次のような常識的結論がすぐに導出される。
A.販売価格を高くできれば、利益が増大する。
B.製造費用を削減できれば、利益が増大する。
C.販売管理費用を削減できれば、利益が増大する。
D.総販売数量を増大させれば、利益が増大する。
研究開発投資によるイノベーションという視点から上記のことを論じると、下記のような4つのことが推論される。
推論1.製品の機能や性能に関わるイノベーション(prduct innovation)によって、顧客が求める新機能を実現したり、顧客満足度を高めるような性能向上を実現できれば、しかもなお、他社がそうしたprduct innovationを模倣できなければ、競合製品に対する相対的競争優位を獲得でき、「より高い価格で販売すること」や「より多く販売すること」が可能になる。
(上記の個別企業の視点からだけではなく、業界全体から言っても、製品イノベーションの実現によって製品のコモディティ化を避けることができ、価格競争ではなく、機能競争や性能競争を中心に据えることで「より高い販売価格の維持」が可能となる。)
推論2.製品の製造過程に関するイノベーション(process innovation))によって、顧客満足度を高めるような製品の品質向上を実現できれば、競合製品に対する相対的競争優位を獲得でき、「より高い価格で販売すること」や「より多く販売すること」が可能になる。
推論3.製品の製造過程に関するイノベーション(process innovation)によって、「製品の製造費用」(製造コスト)を削減できれば、それだけ利益が増大する。
推論4.製品の販売業務や会社の管理業務に関するイノベーションによって、「製品の販売管理費用」を削減できれば、それだけ利益が増大する。
[考察してみよう]
課題1.上記の4つの推論それぞれに関して、具体的事例(企業名、および、当該企業がおこなったイノベーションの具体的内容)に基づいて詳しく説明してみよう。
課題2.イノベーションによる競争優位の追求には、「より高い価格で販売すること」や「より多く販売すること」を可能にする一方で、イノベーションのための研究開発投資、新製品生産のための設備投資、従業員や顧客の再教育費用などのために製造費用や販売管理費用を増大させる、というトレードオフ問題がつきものである。このことを具体的事例に基づいて説明してみよう。
課題3.上記のようなトレードオフ問題の存在に対して、各企業が実際にどのような対応を取っているのかを調べて見よう。なおその際には、コア・モジュール、コア・コンピタンス、モジュール化といったキーワードとの関連で考察してみよう。
課題4.他社がproduct innovationを模倣できないようにすること(模倣困難性の確保)は、技術的リーダーシップによる模倣困難性の確保と、知的財産権など法的権利による模倣困難性の確保という二つの視点から論じる必要がある。そうした両者の連関と差異に関して、具体的事例に基づいて説明し見よう。
課題5.同一モジュールの採用によるコスト削減には、メリットとデメリットがある。自社の複数製品における同一モジュールの採用の場合と、自社および他社の複数製品における同一モジュールの採用の場合に分けて具体的事例に基づいて考察してみよう。
[ヒント]
1.インターネットや電子メールといったIT(またはICT)に関するイノベーションは、組織のあり方を変えたり、販売管理費用削減に有用である。
2.ITに関するイノベーションは、組織の取引コスト(transaction cost)を削減する。
3.process innovationによる製造コスト削減は、多種類の製品における共通モジュールの統一的採用による、研究開発対象の限定・少数化による研究開発費用の削減といった「範囲の経済」効果、同一モジュールの大量生産による「規模の経済」効果、同一モジュールの累積生産量の増大による「経験曲線」効果の利用といったことで可能になる。