佐野ゼミ 3年次 2014.06.04

新製品開発に際しては、「需要(demand)に関する市場調査に基づいて製品イノベーションを進める」Market-oriented Innovation的やり方と、「需要(demand)に関する市場調査をおこなうことなく製品イノベーションを進める」Technology-oriented Innovation的やり方の二種類が存在する。

タイプ1>Market-oriented Innovation — 市場調査に基づく製品イノベーション
Market-oriented Innovation的やり方とは、「当該製品市場において顧客はどのようなことを重視しているのか?」や「製品イノベーションを実行した場合に市場でどの程度の需要が見込めるのか?」に関する市場調査に基づいて製品イノベーションをするやり方である。
eco_h25-02_img01たとえば岩崎夏美さんが6月4日ゼミ課題レポート「Panasonicドラム式洗濯乾燥機 NA-VX9300、NA-VX7300、NA-VX730S」で取り上げているように、Panasonicはドラム式洗濯乾燥機に関する2013年度の製品イノベーションに際して、同社のドラム式洗濯乾燥機を2012年に購入した顧客を対象としたアンケート調査の結果(右図参照)に基づいて新製品開発をおこなっている。
すなわち、顧客が製品購入に際して重視する製品性能が、省エネ性能、節水性能、洗濯容量、洗浄力であるというアンケート結果に基づき製品イノベーションをおこない、下記のような性能向上を実現している。

1)省エネ性能の向上
洗濯物1kgあたりを洗濯するのに必要な消費電力量を旧世代機の10.8Whから約35%減の7.0Whに削減した。
洗濯物1kgあたりを乾燥させるのに必要な消費電力量を旧世代機の306.7Whから約67%減の100.0Whに削減した。
 

2)節水性能の向上
洗濯物1kgあたりの水使用量を旧世代機の8.7リットルから約9%減の7.8リットルに削減した。

3)洗濯容量性能の向上
1度に洗える洗濯物の重量上限を旧世代機の8kgから約25増の10kgに向上させた。

4)洗浄力の向上
従来機の温水ジェット泡洗浄方式から、新世代機におけるジェットバブルシステム方式へ変更した。
ドラムの大径化によって「たたき洗い」効果を増大させた。
 

市場調査に基づく性能向上による製品イノベーション
旧世代機 新世代機
洗濯時消費電力
[Wh/kg]
10.8 → 35%減 → 7.0
乾燥時消費電力
[Wh/kg]
306.7 → 67%減 → 100.0
最大洗濯重量
[kg]
8 → 25%増 → 10
[出典]パナソニック(2013)「ドラム式洗濯乾燥機 NA-VX9300、NA-VX7300、NA-VX730S:平成25年度 省エネ大賞 省エネルギーセンター会長賞」
パナソニック>アプライアンス社 > 環境活動 > 省エネ大賞受賞商品の紹介 > ドラム式洗濯乾燥機
http://panasonic.co.jp/ap/ecology/eco_h25-02.html
 

パナソニックは、上記のような市場調査結果に基づく製品イノベーションにより、洗濯機の販売台数を下記のように順調に増加させ、1951年9月の洗濯機の生産開始から数えて約50年後の2013年8月23日にはグローバル生産累計1億台を達成している。

panasonic-2013-08-29-1-2

タイプ2>Technology-oriented Innovation — 市場調査に基づかない製品イノベーション
Technology-oriented Innovationは、「製品市場がまだ存在してはいないため、需要(demand)に関する市場調査をおこなえない場合」と、「製品市場は既に存在するが、ターゲットとする顧客の特性が既存市場の顧客の特性とは異なるため、既存市場の顧客を対象とした市場調査が有意味ではない場合」の二つのタイプに分けることができる。
タイプ2a> 「それまで存在しなかったまったく新しい画期的な新製品であるために、新製品開発の開始時点ではまだ調査対象とすべき製品市場(Market)が存在しないために需要(demand)に関する市場調査がおこなえない」場合
タイプ2b> 製品市場それ自体は存在するが、既存顧客とは異なる特性を持つ顧客をターゲットとした新製品開発であるため、既存顧客を対象とした需要(demand)に関する市場調査が無意味な場合
上記のことを踏まえて、6/11では下記の課題のどれか一つを取り上げてレポートをしなさい。
 
課題1 demandに関する市場調査をおこなうことなく(あるいは市場調査の結果を重視することなく)製品イノベーションを進めるTechnology-oriented Innovation的やり方で、市場的成功をおさめた事例を探し出しなさい。なおその際には、販売数量、売上金額などの具体的数値を必ず挙げなさい。
 また前回の課題ページの発言3などのように、「demandに関する市場調査をおこわなかったこと」、あるいは、「市場調査の結果を重視しなかったこと」がわかる具体的根拠も同時に挙げなさい。
課題2 demandに関する市場調査に基づいて製品イノベーションを進めるMarket-oriented Innovation的やり方で、市場的成功をおさめた事例を探し出しなさい。なおその際には、販売数量、売上金額などの具体的数値を必ず挙げなさい。

課題3 P&Gの下記WEBに挙げられている事例の中には、demandに関する市場調査に基づくものではなく、人々が明瞭には意識してはいないnecessity/usefulnessに関する科学的分析や技術的分析に基づく製品イノベーションがある。そうしたことに該当する事例すべてを挙げ、それぞれの事例がどのようなnecessity/usefulnessに関する製品イノベーションであるのかを個別に説明しなさい。

http://jp.pg.com/innovations/inde.jsp
http://jp.pg.com/innovations/backnumber.jsp

課題4 上記に挙げたP&G社以外で、自社の製品イノベーションを紹介しているWEBページを見つけ、そうした製品イノベーションの事例の中で、demandに関する市場調査に基づくものではなく、人々が明瞭には意識してはいないnecessity/usefulnessの分析に基づく製品イノベーションの事例を一つ探し出しなさい。そしてその事例がどのようなnecessity/usefulnessに関する製品イノベーションであるのかを説明しなさい。

課題5 necessityに応える製品イノベーション、あるいは、従来よりも大きなusefulnessを実現する製品イノベーションとして社会的注目を浴びてはいるが、期待されるほどの大きなdemandを獲得できてはいない製品イノベーションを一つ取り上げ、下記のポイントのいくつかを含む説明を展開しなさい。

ポイント1>necessityに応える製品イノベーション、あるいは、従来よりも大きなusefulnessを実現する製品イノベーションであるのはどのような意味においてなのか?
ポイント2>多くの人々のwantsを形成できていないためにさほど大きなdemandを獲得できてはいないない場合には、その理由を考察するとともに、多くの人々のwantsの形成のために企業はどのような方策を取っているのかを分析しなさい。 
ポイント3>一定数以上の人々のwantsを形成できているにも関わらずさほど大きなdemandを獲得できてはいないない場合には、その理由を考察するとともに、より大きなdemandの形成のために企業はどのような方策を取っているのかを分析しなさい。
ポイント4>予想販売台数などdemandの大きさに関する予想数値を調べなさい。
ポイント5>実際の販売台数など実際のdemandの大きさを調べなさい。

カテゴリー: 2014年度-3年次ゼミ(2013-2015), イノベーション論, 佐野ゼミ生用 パーマリンク