Design概念の理論的明確化の必要性

日本語のカタカナ表記におけるデザインという語の一般的意味と、英語におけるdesignという語の経営技術論的意味には差異がある。
 これは英語におけるdesignという語が次に述べるような二重の意味をもっているからである。
 
1.「意匠」と「設計」という二つの意味を持つ語としてのdesgin
 英和辞典においてdesignという単語は、「意匠」、「図案」、「素描」、「設計」、「構想」、「着想」、「計画」、「企図」など様々な訳語が当てられているが、漢字を当てはめることなく「デザイン」と表記されることも多い。
 というのも、designという単語には「意匠と計画という二つの意味があり、この二つの意味を同時に表す言葉が他の言語では見つからなかった」(多木浩二「デザイン」『世界大百科事典』平凡社)ため、日本以外の国でもデザインという語が外来語としてそのまま使われることが多い。
 しかし日本におけるデザイナーという用語の意味にも端的に示されているように、工学や経営学など一部の専門学問分野以外ではdesignという語が「意匠」という意味において使われることが多い。
 
 
2.経営技術論的視点から見たdesignという行為の対象---製品設計と製造工程設計
 

Product
Function
Performance
 

Production Process

 
製品にどのような機能を付与するのか(あるいは簡単ケータイのように付与させないのか)という技術的決定、製品が持つ諸機能それぞれに関してどの程度の性能とするのかという技術的決定、製品をどのような外観および内部的形状にするのかという意匠決定が、Product design(製品設計)における問題である。
これに対して製品の生産プロセスにおいてどのような機械や装置を用いるのかという技術的決定(ex.発電プロセス、すなわち、電気というProductを生産するのに、軽水炉型原子炉による原子力発電所を用いるのか、天然ガス・石炭・石油などをエネルギー源とする火力発電所を用いるのか、水の持つエネルギーを利用する水力発電所をもちいるのかという技術的決定)、製品の生産プロセスをどのような工程から構成させるのかという技術的決定などが、Production Process(製造工程設計)における問題である。
 なお経営技術論の主要な対象ではないが、Business Processをどのようにdesignするか(あるいdesignできるのか)も、そのdesignの主要な規定要因の一つが技術である限りにおいて対象となる問題である。
 
[調べてみよう]
課題1.製品の生産プロセスに関する技術的発展による工程の構成変化、すなわち、プロセス・イノベーションとはどういうことなのかを調べてみよう。
課題2.同一時点においても、同一製品セグメントに属する製品を生産するのに、複数の異なる工程構成が可能である。それはどういうことなのかを調べてみよう。
 
 
3.「外部環境」的規定要因、「内部資源」的規定要因、「主体的構想」要因
「何をどのようにdesignするのか?」というdesignに関する戦略的決定問題を考える際には、designに関わる諸要因に関して下記のように分類して分析する必要がある。
 
a.「外部環境」的規定要因
現存市場(顕在市場)に関する量的規定(市場の現在規模、成長率など)
現存市場(顕在市場)に関する質的規定(市場のセグメント的位置づけや内部的セグメント構成)
競合企業の製品競争力・イノベーション力および製品戦略・技術戦略
競合製品セグメント

ex.1a ケータイ製品の内部的セグメント構成
1) ベーシックフォン(basic phone)
2) フィーチャーフォン(feature phone)
3) スマートフォン(smart phone)

 
ex.2b ケータイ製品のセグメント的位置づけ
1) 上部製品セグメント — エレクトロニクス製品
2) 競合製品セグメント
2-a. パームやニュートンなどのPDA(Personal Digital Assistant)
2-b. iPod touchなどの通信機能を持つデジタルメディアプレーヤー
2-c. iPadなどのタブレット端末
2-d. iMacなどのPC

 
[調べてみよう]
課題3.上記のように製品のセグメント構成が階層的であるということは、製品競争が同一セグメントに属する製品の間での「製品」間競争としての性格と、異なるサブセグメントに属する製品の間での「セグメント」間競争としての性格という二種類を同時に持つことになる。
 そのことをケータイ製品やPC製品などを取り上げてわかりやすく説明しなさい。

 
b.「内部資源」的規定要因
1) 企業が現に持っている製品技術や製造技術
2) 企業が現に持っている特許権や著作権などの知的財産権
3) 企業が現に持っているイノベーション能力(技術革新能力ほか)
 
c.「主体的構想」要因
 product designの決定行為は、上記のような「外部環境」的規定要因と「内部資源」的規定要因に関する分析的考察をもとになすべき創造的行為である。
 単純化して言えば、「市場」「競合製品」「競合企業」といった外部的要因と、企業が内部的に有する「技術力」「技術革新能力」といった内部的要因に関する分析的考察に基づいて、競争力のある製品を新たに構想するのがdesign決定である。
 製品の機能・性能に関するdesignは、「外部環境」的規定要因と「内部資源」的規定要因だけで「受動」的に決定されるものではなく、同一製品セグメントに属する競合製品に対する相対的競争優位の確保、新しい製品セグメント(あるいは、PC製品セグメントにおけるサブ製品セグメントとしてのノートPCのような新しいサブ製品セグメント)の市場創造(Market creation)、中長期的視点からの自社および他社の技術戦略・イノベーション戦略などに対応した創造的行為である。
 
カテゴリー: 佐野ゼミ生用課題, 学問的考察, 教員用メモ, 理論的問題, 製品アーキテクチャ論, 製品設計(Product design)問題 パーマリンク