市場調査から出発する新製品開発に対する否定的見解

    https://newspicks.com/news/933845/body/

    「紙パックのない掃除機や羽根のない扇風機など、消費者を驚かす製品を開発できる理由は」というインタビューアーの質問に対して、ダイソン日本法人社長の麻野信弘は、「その秘訣は「マーケティング」をしないことでしょう。消費者のニーズだけを探っていても驚くべきものはできません。徹底的なプロダクト重視。ダイソン社内では「マーケティング」という言葉は一切使いません。」と答えている。
    麻野信弘によれば、ダイソンは市場調査の代わりに、ジェームズ・ダイソン直属のエンジニアチームが実際に来日して消費者の自宅を訪問して実際の掃除の様子を観察している、とのことである。すなわち、「大阪や東京、郊外や大都市、マンションや一軒家などさまざまな家庭にお邪魔して、掃除をしているところを、ひたすらみます。これこそネットに頼ったリサーチではなく、本物のリサーチだと思います。さまざまなシチュエーションでダイソンの製品がどう使われているのか、じっと観察することで意外な発見が生まれます。」と語っている。

     なお「ダイソン、ファン吸引術、売り場・値下げ、戦略緻密、家庭訪問、生の声開発に。」『日経MJ(流通新聞)』2015年06月17日では、ジェームズ・ダイソンが「商品開発では市場調査を先行させない。従来家電に使い慣れている消費者はその『問題』に気付きにくいためだ」、「事前に消費者の声や要望を聞いても多機能になりすぎるだけ。」と述べたことを紹介している。また同記事では、ダイソン社は、「消費者調査に頼らない」「広告宣伝費より技術開発に投資」「安売りはしない」という3原則を掲げ、「問題解決型の商品開発」の手法によりあくまで「技術力ありきの経営」を貫いてきた、としている。

     

    https://forbesjapan.com/articles/detail/30587

    本記事によれば、「ここ数年、宇宙分野への投資は活発化しており、今年は既に50億ドル以上の資金が宇宙分野に注がれている。」という背景のもと2019年11月5日にサンフランシスコで開催されたイベントにおいて、宇宙関連の起業家たちに対して、イーロン・マスクが「私は(新たなビジネスを立ち上げる際に-引用者補足)市場調査的なことは、一切やらない」と語ったとしている。
     なおWalker, Sam (2019)「「テスラCEOの無謀な賭け、時代遅れの経営術:ビッグデータ時代に市場調査をないがしろにする愚かさ」」The Wall Street Journal, 2019年12月3日,https://jp.wsj.com/articles/SB10604826591205724510004586054813001991394[原文:Walker, Sam (2019)”Elon Musk and the Dying Art of the Big Bet: In the age of Big Data, Tesla’s stated approach to market research—ignoring it altogether—seems especially reckless”]は、イーロン・マスクの同発言を引用しながら、市場調査を無視するイーロン・マスクの姿勢を批判している。
     
  1. 山内溥(任天堂の3代目社長[1949年-2002年]の発言 — 「市場調査? そんなことしてどうするんですか?」
  2. 市場調査? そんなことしてどうするんですか?――なるほど、その結果に基づいた商品を開発したときは、ユーザーの気持ちは離れているということですね。たしかに、そういったタイムラグという問題もある。でもね、任天堂が市場を創り出すんですよ。調査する必要などどこにもないでしょう。」高橋健ニ(1986)『任天堂商法の秘密――いかにして“子ども心”を掴んだか』祥伝社
     
  3. 井深大(ソニーの創業者)の発言 — 「モノを出すことによって初めて市場調査ができる」
  4. http://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/capsule/21/index.html

    「市場調査によって新製品を企画するのが米国の常識になっているが、モノを出すことによって初めて市場調査ができる。それ以来、私は『マーケット・クリエーションを伴うものが新しい製品だ。本当の新製品はマーケット・クリエーションがなければならないのだ』ということを強く考えるようになった」ソニー(2009)「Sony Japan | タイムカプセル vol.21 創業者 井深の初夢、正夢となる」
     
  5. 盛田昭夫(ソニーの創業者)のトランジスタラジオに関する発言 — 「まずモノを作って、それがなぜ必要なのかを喚起していく。これがマーケットクリエーションでしょう」
  6. 「私がトランジスタラジオを作り、アメリカに持って行った時は、放送局がたくさんあるから、ゆったり楽しむために家族ひとりひとりがラジオを持つべきだというコンセプトで売ったわけです。ところがアメリカ人は世界で最初にトランジスタラジオを作ったのに、アメリカではでかくて立派なのが家に1台あればいい、こんなもん売れんと諦めた。まずモノを作って、それがなぜ必要なのかを喚起していく。これがマーケットクリエーションでしょう」(『週刊ダイヤモンド』昭和62年6月6日号)[盛田昭夫(1996)『盛田昭夫語録』ソニ-・マガジンズ,p.264]
     
  7. ソニー『Sony History』第3章「テープレコーダーに惚れた男」の第4話「溝を掘って水を流せ」[テープレコーダーに関するソニーのWeb上の記述]
  8. http://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/SonyHistory/1-03.html#block10

    『溝を掘って、水を流せ』の言葉通り、こうした普及活動の成果が実を結び、東通工のテープレコーダーは、瞬く間に全国の学校に広まっていった。このことから盛田たちは、本当の市場、最上の市場というのは市場開拓にほかならない。つまり、マーケットクリエーションがいかに企業にとって大事かということを体得していった。」
     
  9. マーケットリサーチに頼って商品企画をすると、最大公約数を狙った平凡な商品になってしまう危険性がある
  10. 「「消費者の心の琴線に触れる商品を作ろう」/この言葉は、井深氏、盛田氏はじめソニーの経営トップ、特に大賀典雄氏が常に口にした言葉だった。/”心の琴線に触れる商品作り”とは何か?/それは、マーケットリサーチでお客さまが何を欲しているかを探ることではない。/商品企画にはマーケットリサーチが重要だという考え方がある。しかし、ソニーでは違っていた。/そもそも、マーケットリサーチでどこまで顧客のニーズをつかめるかは、はなはだ疑問だ。マーケットリサーチに頼って商品企画をすると、最大公約数を狙った平凡な商品になってしまう危険性がある。/あくまで、自分たちが欲しい、満足すると思える商品であるかどうかがものづくりの基準であった。」鵜飼明夫(2003)『ソニー流商品企画』H&I,pp.35-36
     
  11. 顧客を裏切る・・・顧客が「欲しいと思っている」モノは、「顧客が真に望んでいるモノ」とは異なることもある
  12. 「まずは綿密な市場調査から。新商品開発の定石は顧客の声に耳を傾けること。企業は購買履歴やインターネットで必死に情報収集する。しかし、念入りに準備してもヒット商品は生み出せない。顧客の声をなぞるだけでは、驚きや感動は与えられない現実。モノが売れない時代こそ、顧客を「裏切る」決意が必要だ。そこから、消費者が真に望む商品が見えてくる。」戸田顕司;宇賀神宰司;吉野次郎;池田信太朗(2007)「ヒット作りの決意 ホンダ、三菱電機、パイロット… 顧客を裏切る」『日経ビジネス』2007年9月10日号,pp.31
     
  13. ホンダのクロスロードの開発責任者の安木茂宏の発言 — 「開発の出発点となるコンセプト作りの段階で、消費者調査をしないことにした」
  14. 安木茂宏(本田技術研究所四輪開発センター 企画室LPL主任研究員)は、「アコード」「シビック」など、ホンダを代表する自動車の開発に長年にわたり携わってきたが、2007年2月発売のクロスロードという新車種の開発責任者として製品コンセプトを決定する際に、消費者調査をしないことを決めたとして「新車種の開発責任者を務めるに当たって、決めたことが1つある。/それは消費者の声に耳を傾けないこと。開発の出発点となるコンセプト作りの段階で、消費者調査をしないことにしたのである。」と述べている。氏は、「コンセプト作りは、とても重要な作業である。デザインや乗り心地、価格、そのほか細かい仕様を決める原点だ。この段階で、顧客に自動車に対する意識や嗜好、改善してほしい点などを綿密に調査することは一般的である。」としながらも、「消費者の声をあえて排除した」製品コンセプト作りを追求した、語っている。[引用出典]「ヒットのタネは「!」 その3 - ホンダ 東芝」『日経ビジネス』2007年09月10日号,pp.38-39
     

    https://wotopi.jp/archives/32277

    キングジム開発本部長の亀田登信は、ネットもメールもできずメモしか取れないのに、累計で30万台売れた製品であるポメラを例に取りながら、「キングジムでは技術的なことでも、売り方でも、コンセプトでもいいので、何か1つ「この切り口での観点はなかったね」と思えるものを商品化するように心がけています。「独創的な商品を開発し、新たな文化の創造をもって社会に貢献する」という経営理念に沿って、モノマネはしません。」、「我々は使用シーンやユーザーのターゲットを絞っていて、「ニッチな市場」を狙っていますが、実はそれで十分なんです。マスを狙っているわけではありません。」と述べている。
     そしてそうした考え方に基づき製品開発をおこなっているため、商品調査があまり意味がないとして、「商品を出す前に市場調査を行っている会社も多いと思いますが、キングジムの商品のように「今まで世の中になかったもの」は調査をしても、正確な答えが出ないんですよね。たとえば「冷蔵庫の野菜室はどれくらいの大きさがいいですか?」という質問だったら調査をして答えが出ますが、「見たことのないもの」を欲しいかどうかなんて、消費者には分からない。なのでキングジムでは答えのない調査はしないポリシーなんです。」と述べている。
     

     

    https://marketingnative.jp/kingjim/

    話題の商品を次々世に送り出すキングジムですが、実は事前の消費者調査や市場調査はほぼ行っていないことでも知られています。なぜマーケティングを行わずに新商品を出し続けることができるのでしょうか。また、どのようにしてニッチな商品の需要を掘り起こしているのでしょうか。」という問題意識に基づき、キングジム常務取締役開発本部長の亀田登信に対しておこなったインタビュー記事である。
     本記事で亀田登信は、キングジムが新製品開発に際して市場調査をしない理由を下記のように3つ挙げている。

    理由1 開発段階での「良い」「悪い」という判断は、最終的には参考にならないからである。実際、商品化を決める開発会議でたった1人しか商品化に賛成しなかったポメラがヒット商品となったり、逆に売れると思った商品が売れなかったりした。

    理由2 ターゲット層とする顧客が「調査段階で商品の出来上がりを想像するのは難しい」からである。というのも、キングジムは「主に新しい概念の商品を手掛けていますから、実際に商品、もしくはそれに近い形でないと、お客さんに特徴がわかりにくい」ため、商品化の後でないと顧客が実際に購入するかどうかが明確にはわからないためである。

    理由3 「外部の調査会社を使って調査する費用と時間があれば、商品が作れてしまう」からである。キングジムは、「商品を素材から作っているわけではないので、物を作るフットワークが軽く、市場調査を行うよりも実際に商品として出すほうが速い」、「とりあえず商品を出してみて、そこで初めて市場調査をしている」、「商品が当たったら、市場の反応を見て方向を修正していく。「ポメラ」の場合、2号機や3号機などはトライアンドエラーを繰り返して改良し、発売していました。」としている。
     

     

    https://www.news-postseven.com/archives/20170907_610809.html

    「「お客様が喜ぶもの」をどのように見出していらっしゃいますか? マーケティング(市場調査)についてはどうお考えでしょうか。」という質問に対して、高級家電メーカーのバルミューダ(BALMUDA)社長の寺尾玄は、「マーケティングは一切しません。では何を頼りにするかといえば、私独自の考え方があります。「ポップ」とは何かを、追求するんですね。」と答えている。
     

    http://kanzaki.sub.jp/archives/002528.html

    2015年10月に『日本経済新聞』電子版の広告特集「グローバル経営層スタディ、世界をリードする経営者たちの声」に掲載された、高岡浩三・ネスレ日本代表取締役社長兼CEO(当時)に対するインタビュー記事。
     本記事では、市場調査に対する直接の否定的発言はないが、「顧客が既に認識している問題の解決」はリノベーションであり、「顧客がまだ認識していない問題の解決」こそがイノベーションである、としている。「顧客がまだ認識していない問題」は市場調査で解明することができない、という意味で高岡浩三の見解は市場調査から出発する新製品開発に対して否定的なものと捉えることができる。
     なお高岡は、コーヒーをおいしく飲むためのマシンを開発することで顧客がまだ認識していない問題を解決したイノベーションの具体例として、家庭用のドリップ式コーヒーメーカー、自動販売機の保温機能(ホットベンディング)の開発を挙げている。
     

    http://kanzaki.sub.jp/archives/002528.html

     

    https://pearand.com/blog/2015/11/16/apple-research/

 
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