2) 技術的アイデア(特許etc)
3) 発明品
4) 製品(実用品)
上記の諸要素は、Innovationに関するリニア・モデルのように時間的に直線的に進行する場合もあれば、Innovationに関する3 Klein=Rosenbergによる連鎖モデルのように時間的な前後関係にはなく複雑に絡み合いながら進行する場合もある。
<参考>
リニア・モデルを主張した最初の文献と一般にされている文献:Bush, V. (1945) Science: The endless frontier, United States Government Printing Office, Reprinted July 1960, National Science Foundation
Klein=Rosenbergによる連鎖モデル:Klein,S.J. and Nathan Rosenberg(1986) “An Overview of Innovation” in Landau,R., Rosenberg,N.(eds.) The Positive Sum Strategy:Harnessing Technology for Economic Growth, National Academy Press, p.290.
原子力発電所というproduct innovationと関連する「発見」を1個以上挙げなさい。ただし最大で5個までのみ採点対象とする。 (各発見ごとに1点)
まず最初にシラード(Leo Szilard,1898–1964)が1933年に「連鎖的核分裂反応」(nuclear chain reaction)概念という技術的アイデアを提唱するとともに、1934年には連鎖的核分裂反応という技術的アイデアの用途に関する特許を出願している。すなわちシラードは同特許の1934年6月28日出願時のProvisional Specification No.19157の7行目から13行目において「この発明の対象は、放射性物質を生産すること、放射性物質の生産によってエネルギーを貯蔵すること、動力生産(power production)や他の目的のために原子核変換(nuclear transmutation)によって核エネルギーを解放させることである」と記すとともに、中性子による原子核変換の連鎖反応(chain reaction)によってエネルギーを取り出す装置の可能性を提示している。なお1934年7月4日修正のProvisional Specification No.19721では発明内容の順番が変更され、動力生産が最初に挙げられている。
このようにシラードは「原子核に中性子を衝突させることで連鎖的核分裂反応を引き起こして動力を生み出すこと」に関する英国への出願特許という技術的アイデアを1934年6月には提示しているが、実際に「原子核に中性子を衝突させることで連鎖的核分裂反応を引き起こして動力を生み出すこと」ができる技術的可能性の実験的確認でさえ、1942年12月2日のフェルミらによるシカゴ・パイル1号原子炉による臨界の実現と8年後である。
次に1951年には実験炉EBR-Iという実験炉(発電が実際に可能であるかどうかを実験的に調べるための原子炉)が発電容量も1kWと極めて小さいが、原子力発電を実際におこなった。世界最初の実用的な原子力発電所は、1954年6月に運転を開始したソビエト連邦のオブニンスク原子力発電所と言われている。これ以後、アメリカ、イギリス、カナダ、フランス、ノルウェーなどで原子炉が続々とつくられた。
このようにシラードによる連鎖的核分裂反応を利用した動力生産という「技術的アイデア」)の提示(1934年年6月)から、実際に連鎖的核分裂反応を利用した動力生産をおこなう実用的な原子力発電所という「発明品」・「製品」であるソビエト連邦のオブニンスク原子力発電所の出現(1954年6月)までは20年もの期間がかかっている。
こうしたウランの核分裂現象を利用した発明品に基づいて製造されたProductが、原子爆弾や原子力発電所である。
参考資料
「シラードによる原子核分裂の連鎖反応に関するイギリスでの特許630,726号(1934年6月28日出願) ”Improvements in or relating to the transmutation of chemical elements”」
http://worldwide.espacenet.com/publicationDetails/biblio?CC=GB&NR=630726