企業間競争に関して技術の視点から問題となる主要な焦点は次の4つである。Innovationが企業間競争において有意味であるのかどうか、またどのようなadvantageを企業に与えるモノなのかという議論をする際には、下記の4つの視点それぞれに関して個別に分析的に論じるだけでなく、競合製品との競争力の差を総合的に論じる必要がある。
1.製品の機能(function) — 「製品は顧客のどのような必要性を充足しているのか?」「製品は顧客に対してどのような有用性を提供しているのか?」という質的規定
・機能に関しては「持っているのか?、持っていないのか?」という有無が問題となる
・ケータイは、「電話」機能は、「メール」機能、「WEB閲覧」機能、「カメラ」機能、「PDA」機能など多様な機能を持っているものとして、多機能携帯端末機である。
2.製品の性能(performance) — 「製品は顧客の必要性をどの程度充足しているのか?」「製品の有用性をどの程度の大きさなのか?」という量的規定
・性能に関しては「競合他製品よりも高いのか?低いのか?」という高低が問題となる
・ケータイの「電話」機能に関しては「つながりやすいのか。つながりにくいのか?」といった性能が、「カメラ」機能に関しては「何百万画素なのか?」といった性能が問題となる
3.製品の品質(quality) — 「製品の初期性能はどの程度の期間まで持続するのか(使用にともなう性能の低下度はどのようなものなのか?)」製品の初期不良率はどの程度なのか?」「製品の平均故障時間はどの程度なのか?」「製品はどの程度まで乱暴に扱っても故障が起きないのか?」という量的規定
4.製品の価格(cost) — 「製品の初期購入コストはいくらなのか?」「製品のランニング・コストはいくらなのか?」「製品のスイッチング・コストはいくらなのか?」という量的規定
[考察してみよう]
課題1.4つの視点それぞれに関して個別に分析的に論じるだけでなく、競合製品との競争力の差を総合的に論じる必要があるのはなぜだろうか?具体例を挙げながら、説明しない。
— 例えば、高性能性で差別化できても、コストがきわめて高ければ製品の競争力はないことになり、企業の技術的なブランドイメージは高まるにしても企業の収益面での貢献は弱いものになる。そのような製品の具体例を数値データを挙げながら説明しなさい。
課題2.機能の有無が製品競争力を大きく左右している実例を挙げなさい。なおその際に販売台数や市場シェアといった数値データを挙げながら説明しなさい。
課題3.性能の高低が製品競争力を大きく左右している実例を挙げなさい。なおその際に販売台数や市場シェアといった数値データを挙げながら説明しなさい。
課題4.品質の高低が製品競争力を左右している実例を挙げなさい。なおその際に販売奨励金、製品価格、市場シェアといった数値データを挙げながら説明しなさい。
課題5.製品の初期購入コストとランニング・コストの区別を説明するとともに、同一の製品セグメントに属する製品で「初期購入コストが低いがランニング・コストが高い」製品と「初期購入コストが高いがランニング・コストが低い」製品の例を挙げなさい。また企業が「初期購入コストが低いがランニング・コストが高い」製品を出す意図を具体例をあげながら説明しなさい。
[ヒント]こうした問題は、インクジェットプリンターvsレーザープリンター、熱転写式FAXvs普通紙FAX、ガソリンエンジン車vsディーゼルエンジン車、ガソリンエンジン車vsハイブリッド自動車などに関して論じることができる。
課題6.製品のスイッチング・コストは何なのかを具体例をあげながら説明しなさい。またその際に、スイッチング・コストが問題になる製品と、スイッチング・コストが問題にならない製品とではどのような差異があるのかを説明しなさい。
[ヒント]こうした問題は、地上波アナログ放送から地上波デジタル放送へのイノベーションの際に、放送局側で特に問題となった。またアナログラジオ放送からインターネットラジオ放送へのイノベーションに関しても同様のことが問題となっている。
課題7.製品のスイッチング・コストを高めること(あるいは、製品のスイッチング・コストが高いこと)は、企業間競争やイノベーションにどのような影響をもたらすのかを具体例をあげながら説明しなさい。
課題8.具体的事例を取り上げて、イノベーションがどのように社会的に成功(あるいは普及)したのかに関して、上記の4つの視点から分析しなさい。
課題9.上記の4つの視点から、product innovationとprocess innovationの差異と連関を、具体例を挙げながら説明しなさい。