イノベーション視点からの分析

佐野ゼミでは、イノベーションをテーマとしたレポート作成が求められます。
 
イノベーションとは、日本語で「革新」、ドイツ語で「Neuerung」、中国語で「創新」とも表記されることに示されているように、「何かを新しいものに変えること」を意味しています。
そのためにはレポートにおいて下記のような事項を明示しておくことが必須です。
 
1.何に関するイノベーションなのか?
例えば、「家庭用ゲーム専用機に関するイノベーション」でいえば、「そもそも家庭用ゲーム専用機とは何か?」、「家庭用ゲーム専用機産業の内部構造と外部環境はどのようになっているのか?」を明確にしたうえで、「自分は何を対象としたイノベーションを論じているのか?」が、教員にわかるように記述すること。
 より具体的には、下記事項がわかるように書くこと。

a.どの市場セグメントにおけるイノベーションなのか?
ex.ゲーム専用機市場、PC市場、携帯音楽機器市場、広告市場など
 
b.当該市場のサブセグメントはどのような構成になっているのか?
ex.1ゲーム専用機市場で言えば、家庭用ゲーム専用機市場 vs 業務用ゲーム専用機市場(アーケードゲーム機市場)というサブセグメントへの分割が考えられる。また家庭用ゲーム機市場は、さらに据置型TVゲーム専用機市場 vs 携帯型ゲーム専用機市場というサブセグメントへの分割が考えられる。
ex.2 PC市場で言えば、デスクトップPC市場、ノートPC市場、タブレットPC市場というサブセグメントへの分割が考えられる。
ex.3 広告市場で言えば、ネット広告市場、テレビ広告市場、新聞広告市場、フリーペーパー広告市場などのサブセグメントへの分割が考えられる。
 
2.何から何へのイノベーションなのか?
When(いつ)、Why(なぜ)、Who(どの企業が、どの人が)、Where(どの市場セグメントで、どの製品セグメントで)、What(何を)、How(どのようにして)イノベーションをおこなってきたのかを、下記のよう分析視点から具体的に考察すること

a.旧世代Product(製品、サービス、システムなど)はどのようなものであったのか?
b.新世代Product(製品、サービス、システムなど)はどのようなものであるのか?
c.旧世代Productと新世代Productの差異と同一性は何か?どのような意味でのイノベーションであるのか?(どのような進歩があったのか?また後退した要素はなかったのか?)
 
 
3.どのようなneeds(広義)に応えるイノベーションなのか?
市場の階層的構造が示唆しているように、ニーズも階層的な構造を持っている。例えば、「動画ニーズの充足に関するイノベーション」で示唆的に示したように、「動画視聴ニーズ」というレベルでニーズを捉えることもできるし、テレビ放送へのニーズ(より下位の階層で言えば、ニュース番組へのニーズ、テレビドラマ番組へのニーズ、テレビ映画番組へのニーズ、バラエティ番組へのニーズ、リアリティ番組へのニーズ)、物理的ビデオ・メディアへのニーズ(より下位の階層で言えば、セルビデオへのニーズ、レンタルビデオへのニーズ)、ネット動画へのニーズ(より下位の階層で言えば、オンデマンド型ネット動画へのニーズ、リアルタイム配信型ネット動画へのニーズ)という「動画視聴ニーズ」のサブセグメント・レベルでニーズを捉えることもできる。

 

なおneeds(広義)に関して、より正しくは、下記のような3つのレベル(位相)に分けて論じること

レベル1.有用性(usefulness)や必要性(necessity)といった狭義のneedsというレベルにおけるneeds視点-「顧客(ユーザー)にとってどのように役立つのか?どの程度役立つのか?」「顧客(ユーザー)がどのようなことを必要としているのか?」
  1. イノベーションの遂行者は、顧客にとってのどのような有用性(usefulness)や必要性(necessity)に応えようと意図していたのか?
  2. 当該のイノベーションは、どのような意味で有用性をどの程度増大させるものなのか?それとも増大させないのか?
  3. イノベーションの想定顧客は製品のそうした有用性が自らに必要なことを実際にどこまで認識しているのか?それとも顧客は自らに必要であることを認識していないのか?
レベル2.欲求(wants)というレベルにおけるneeds視点-顧客(ユーザー)はどのような製品を欲しているのか?
  1. 顧客(ユーザー)はどのような機能を持った製品を欲しいと考えているのか?
    顧客(ユーザー)は、自らが欲しいと考えている製品機能に関して最低どの程度以上の性能を望んでいるのか?(当該製品セグメント市場における製品性能下限はどの程度なのか?)

  2. 顧客(ユーザー)は、自らが欲しいと考えている製品機能に関してどの程度以上の性能を望んではいないのか?(当該製品セグメント市場における製品性能上限はどの程度なのか?)
  3. イノベーションの遂行者はどのような顧客の、どのようなwantsに応えようとしているのか?
  4. 当該のイノベーションに対してwantsを現に持っているのは、どのような顧客なのか?
  5. 顧客は自らのwantsをどのような形で明確に述べているのか?

なお上記に関連して可能であれば、下記の事項も考察すること

市場のsegmentation、すなわち、対象顧客のタイプ別分類に関して、「自然」的分類(客観的分類)と「企業戦略」的分類(対象顧客の意図的選択)という視点から考察するとともに、対象顧客のneedsをより満足させるためにどのようなproduct innovationを遂行したのか?あるいは遂行しようとしているのかを論じること
 
レベル3.製品購入=需要demandというレベルにおけるneeds視点-顧客(ユーザー)の製品購入を規定している要因は何か?
  1. 当該イノベーションによって生み出されたProduct(製品、サービス、システムなど)に対するMarket needsすなわちdemandは数値的にどのようなものであるのか?
  2. 当該製品分野において、新世代製品の普及率や販売数量はどのようなものなのか?その年次推移はどうなっているか?
  3. 製品の販売価格は?
  4. どの製品がどの程度、実際に売れているのか?
  5. 顧客(ユーザー)が複数の購入候補製品の中から、ある特定の製品を購入した理由は何なのか?ー製品の価格なのか?、製品の機能なのか?重視する機能に関する製品の性能なのか?総合的なコストパフォーマンスなのか?
 
4.どのようなseedsを利用したイノベーションなのか?
イノベーションに用いられたseedsに関して下記のような分析をおこなうこと

  1. イノベーションに取り組む以前から既に存在していたseedsは何か?(既存seeds問題に関する分析)
  2. イノベーションに取り組むことが決定された後に、新規開発されたseedsは何か?(新規開発seeds問題に関する分析)

なお個別企業におけるイノベーションを取り扱う場合には、下記のような形で分析をおこない、当該企業と競合企業の間での相対的競争優位のあり方を分析すること

  1. 当該企業はイノベーションに取り組む以前からどのような技術的resourceを現に有していたのか?
  2. 当該企業はイノベーションに取り組むことを決定した後に、どのような技術的resourceの新規開発をおこなったのか?
  3. 競合企業は当該企業がイノベーションに取り組む以前からどのような技術的resourceを現に有していたのか?
  4. 競合企業は当該企業がイノベーションに取り組むことを決定した後、あるいは、イノベーションをおこなった後に、どのような技術的resourceの新規開発をおこなったのか?
 
5.どのような視点からイノベーションを分析しているのか?
「レポート作成に利用できるどのようなデータがあるのか?」「レポート作成に利用できるどのようなWEB記事、雑誌記事、単行本があるのか?」といったresource問題とともに、「どのような分析視点から論じるのか?」というpositioning問題についても意識しておくこと。なおイノベーションを担う主体(innovator,あるいは、innovationを推進した企業)について論述する際には、「意図ではどうであったのか」ということと、「結果としてどうであったのか?」を分けて論じること。
 
a.「業界構造分析」視点で論じる
イノベーションの前後で業界構造はどのように変化したのか?あるいは、変化しなかったのか?
 
b.「製品セグメント分析」視点で論じる
イノベーションの前後で製品セグメントはどのように変化したのか?あるいは、変化しなかったのか?
 
c.「製品分析」視点で論じる
イノベーションの前後で製品はどの点がどのように変化したのか?あるいは、主要な部分でどこが変化していないのか?
 
d.「メーカー」視点で論じる
(1) メーカーはどのような意図で、製品開発をおこなったのか?メーカーはなぜそうしたイノベーションに取り組もうとしたのか?
(2) メーカーが開発した製品はどの程度の販売数(あるいは、販売シェア、販売金額、生産数量、生産金額など)であったのか?
 
e.「開発者」視点で論じる
(1) 開発者はどのような意図で、製品開発をおこなったのか?開発者はなぜそうしたイノベーションに取り組もうとしたのか?
(2) 開発された製品は、開発者の最初の意図通りの製品であったのか?(開発者の最初の意図とは異なっていたイノベーションにはどのようなものがあるのか?セレンディピティ(serendipity)によるイノベーションにはどのようなものがあるのか?)
 
f.「イノベーションの段階的発展(世代的発展)」視点で論じる
(1) 現世代製品は、前世代製品に対してどのようなイノベーションを成し遂げたのか?
(2) 現世代製品に対してどのような方向でのイノベーションが焦点となっているのか?
 
g.「製品競争力」視点で論じる
(1) 当該製品は、前世代製品に対してどのような競争優位性を持っているのか?
(2) 当該製品は、同世代の競合製品に対してどのような競争優位性を持っているのか?
同世代の競合製品にはどのようなものがあるのか?
機能面での差異化による競争優位性の確保はあるのか?
性能面での差異化による競争優位性の確保はあるのか?
低コスト化による競争優位性の確保はあるのか?
(3) 競争優位性の確保はどのようにしてなされたのか?あるいは、なされているのか?
  1. 何から何へのイノベーション(革新)であるのか?
  2. どのような意味でイノベーションであるのか?
  3. どのようなタイプのイノベーションであるのか?
    イノベーションのタイプ分類としては、下記のように何種類もの分類アプローチがある。
    a.radical vs incremental
    b.sustaining vs disruptive
    c.technology-driven vs Market-driven
    d.Product-Out vs Market-In
    http://www.sanosemi.com/biztech/document/traditional-view-of-innovation.pdf
  4. 企業はなぜイノベーションに取り組んだのか?
  5. イノベーションを実行している企業は、イノベーションによってどのような競争優位性を確保しようとしているのか?
  6. イノベーションをどのような形で実行したのか?