イノベーションの原因と条件 — 付随的要因vs本質的要因、既存要因と新規要因の区別

「なぜ1970年代にPC製品イノベーションが起きたのか?」という問いに対する学問的考察に際しては、PC製品イノベーションに関してさまざまな視点からの多面的=総合的考察が必要である。
 PCという製品(product)の技術的構成という視点からは、その製品の基本的な中核モジュール(core module)であるマイクロプロセッサーとOSソフト(operating system software)という二つの要因を考察の対象として取り上げるべきであろう。
 PCという製品に対するニーズという視点からは、「なぜ顧客はその製品を必要としているのか?(その製品は顧客のどのような必要性を満たすモノなのか?)」といった必要性(necessity)という要因、「その製品が顧客にとってどのような意味で役に立つモノなのか?」といった有用性(usefulness)という要因、「顧客はいつそうした製品の必要性や有用性を認識したのか?PC製品の発明前からなのか?PC製品の発明後なのか?」といった必要性や有用性に関する認識時点という要因、「PC製品を欲しいという顧客の欲求はいつどのようにして形成されたのか?」という欲求(wants)という要因、「PC製品の購入はいつなされ、どのように増大したのか?」という需要(demands)という要因が問題となる。
 また製品セグメント論的視点からは、「PC製品もコンピュータの一種であるが、PC以外の先行の他のコンピュータ製品といつどのようにして異なる製品セグメントとして社会的に認知されるようになったのか?」とか、「PC製品の定義は何か?例えば、使用主体が会社ではなく個人であるコンピュータという意味でPeronalなのか?製品価格が会社ではなく個人でも購入可能なコンピュータという意味でPeronalなのか?使用目的が会社の基幹的業務ではなく個人的業務のコンピュータという意味でPeronalなのか?製品の消費電力・大きさ・重量が小さく一人の人間でも取り扱い可能という意味でPeronalなのか?」といった製品セグメントの認知や理論的定義という要因が問題となる。

 そしてPC製品イノベーションに関わる多様な要因の分析を通じて、「1970年代にPC製品イノベーションに起こすために必要な条件は何か?」、「PC製品イノベーションが1970年代に起きた原因は何か?」を問う必要がある。
 もちろん、こうした原因と条件という区別は相対的なものである。「特定の社会現象がある特定の時期に、ある特定の場所で生起した原因は何か?」といった語り方は説明のための便宜的なものであり、学問的に厳密には、「その社会現象に関わるさまざまな諸要因の内で何か特に重要な要因なのか?」「その存在がなければ当該社会現象は生じなかったであろうと推定される要因は何か?」(付随的要因ではなく、必要不可欠な要因は何か?)、「当該社会現象の生起に必要不可欠な諸要因の内でその社会現象の生起よりもかなり以前から存在していた既存要因は何で、その社会現象の生起の直前あるいは同時に生み出された新規要因は何か?」というように考察することが必要である。

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